月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

『違うのー。お家の匂いなのー』

 アウルムが言うことは今だによくわからないが、どうやらアウルムは匂いで宿屋を判断しているらしい。

『ここはとても良い匂いなのー』

 ティナにはアウルムが言う”良い匂い”がわからないが、魔物特有の感知能力なのかもしれない。

「そっか。じゃあまた良い匂いがしたお店があったら教えてね」

『わかったよー!』

 今だに何の魔物かわからない、そもそも魔物なのかすらわからない不思議なアウルムだが、その気質は善良だ。アウルムに任せておけば安全だろう。

 それからティナたちは夕食を食べに、一階に併設されている食堂へと向かった。

「いらっしゃいませ! こちらにどうぞー!」

 ティナたちの姿を見た給仕の少女が席に案内してくれた。
 その少女はティナより少し年下の可愛い子で、ティナは後にこの宿の主人の娘なのだと知ることになる。

 ティナはこの地方の名産品だというチーズ料理を、アウルムもチーズソースがかかった子牛のローストを、お腹いっぱいになるまで食べて大満足だ。

「……あれ?」