しばらく野営かな、と思っていたティナだったが、余計な心配だったようだ。

 ちなみにこのビュシエールはチーズが名産らしく、むっちりと弾力があるチーズは、繊細な風味とまろやかなミルクのコクが絶品なのだそうだ。
 ティナは夕食には絶対チーズを食べようと心に決める。

 ティナが古い石畳の道を歩きながら、時々露天やお店を覗きつつ宿を探していると、アウルムが一軒の宿屋の前で止まった。

『ティナー! 僕ここがいいー』

 アウルムが指しているのは「踊る子牛亭」という、少し変わった名前の宿屋だった。

「……ここ?」

 煉瓦造りの三階建の建物は年季が入っていて、老舗の宿のように見える。

『うんー。ここがいいのー』

「わかった。じゃあ、お泊まり出来るか聞いてくるから、ここで待っててね」

 アウルムが指定した宿屋なら、きっと良い宿屋なのだろう。アウルムの勘を信じているティナは、迷うことなく扉を開け、中に入っていく。

「お邪魔しまーす……」

「へい、らっしゃい。ご宿泊で?」