まるで憲兵団の捜査の裏をかくかのように、少女は足取りを掴ませなかった。
 優秀なトールヴァルドの心を掴んだ少女だ。おそらく只者ではないのだろう。

「何としてもその少女を見つけるのだ! 捜査範囲を拡大しろ!」

 緊急の命令に憲兵団の団員たちは馬を飛ばして各街へと伝令を飛ばした。
 ティナが森の中で見たのも、隣の街に命令を伝えるため急いでいた憲兵だったのだ。

 少女の足ではそう遠くに移動出来る訳がない。乗合馬車も憲兵たちに見張らせているし、街道の検問も実施している。

 王都の裏社会である闇の組織や暗殺ギルドも捜査した。違法の奴隷商も摘発したので、王都中の治安が格段に良くなったのは怪我の功名だった。

 更に、王都にタウンハウスがある貴族たちにも協力を仰いだ。もし少女の存在を隠匿する者がいれば極刑だと脅しておいたから、素直に協力するだろう。

 しかし「これで何処にいても見付かる筈だ」と安心したものの、いつまで経っても発見の知らせが来る気配がないことに、閣僚たちは疲弊して行った。

 ──結局、一ヶ月経っても少女の──ティナの行方を掴むことは出来なかったのだった。