月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 旅の途中の森の中で、ティナが張った結界の炎に焼かれ、倒れていたアウルムをトールが抱き上げていた。
 あの時ティナが感じたのは魔物とは違う反応だったと思う。

『うんとねー。もっともっと奥にいたのー。でも黒いの来たからー』

 アウルムの言葉を訳してみると、きっと黒いのは瘴気のことで、奥というのは森の奥のことだろう。

「じゃあ、アウルムが住んでいたところに、瘴気が発生したってこと?」

『しょうきー? わかんないけど変な人間が黒いの置いてったのー』

「えっ……?! 人間が?!」

 この世界に発生する”瘴気”は簡単に言うと”悪い空気”のことだ。見た目は黒い霧みたいなもので、生物が触れると触れた場所から徐々に、身体全体を腐らせていく。
 更に瘴気が発生した場所は草木が枯れ水は腐り、生物が住めない場所になってしまうのだ。

 だから瘴気の発生を確認したら、すぐ浄化しなければならない。
 瘴気の浄化が出来る唯一の手段が神聖力だ。そのため、神聖力を持つ聖女や神官たちが必要とされているのだが……。

 しかしアウルムの話が本当なら、人間が瘴気を持っていた、ということになる。