月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 ティナは店主に心から感謝した。はたから見れば気難しそうな人だが、こうして会話してみればとても優しい人だということがわかる。

「じゃあ、そろそろ帰んな。旅の準備で忙しいんだろう? 早くしないと日が暮れちまうよ」

 店主はそう言うと、椅子から立ち上がろうとするが、ずっと座りっぱなしで体が固まってしまったのか、「いたたた……」と唸っている。

「大丈夫ですか?! どこか悪いところでも?」

 ティナは慌てて店主に駆け寄ると、転ばないように身体を支えた。

「ああ、随分前に腰を痛めてねぇ。こうして動くのも一苦労だよ。すまないが、奥の部屋まで連れて行ってくれないかい?」

「はい、もちろんです」

 ティナは店主を支えながら指示された部屋の扉を開き、ベッドに横たえられるように補助する。

「手伝わせてすまないね。助かったよ。わたしは大丈夫だからもうお帰り」

 店主はティナに帰るよう促すが、ティナは首を振って否定する。

「いいえ。せっかくですし、店主さんの腰を診せてくれませんか?」

「何だい。お嬢ちゃんは医術の心得でもあるのかい?」

「……まあ、そんなもんです」