二人がそんな会話をしていると、憲兵団の団員が扉を開けて入って来た。

「あら、お疲れ様。休憩……にしては早くない?」

 やって来た憲兵はよく食事をしに来る常連だった。

「それが、上からの指示で人探しする様に言われてさ……。ここにちっちゃい獣魔と女の子が来たら教えて欲しいんだよ」

 憲兵の探し人を聞いた宿の夫婦は、思わずお互いの顔を見合わせる。

「えっと……その女の子は何か犯罪を犯したとか……?」

 主人が恐る恐る質問する。憲兵に捜索されるような人間は、大抵が犯罪者か身分が高い行方不明者ぐらいなのだ。

「いや、それはどうかわからないんだが、とにかく探し出して欲しいと言われてな」

 夫婦はティナの姿を思い浮かべる。
 どう見ても彼女は犯罪を犯すような人間には見えなかった。これでも自分は人を見る目はあると自負している。

 強いて言えば、彼女は犯罪者というより、身分を隠して平民の格好をしている貴族のようだった。

「……わかった。それらしいお客さんが来たら教えるよ」

「ああ、頼む」

 結局、宿の夫婦はティナのことを伝えなかった。