月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 だからティナは必死に言葉を紡ぐ。どうか自分を一人にしないで欲しいと願いを込めて。

『トール、死なないで……お願い……』

 本当は闇に溶けたくない。お願いだからトールがいる世界に、光の中に繋ぎ止めて欲しい──これ以上心が壊れないように、繋ぎ止めて欲しいのだ。

『ティナ……。僕は絶対死なないよ。約束する……!』

 トールの強い決意が込められた言葉に、ティナは我を取り戻す。
 そして温かい魔力が、自分を守るためにトールが行使した魔法なのだと、不思議と理解することが出来た。

 ティナは魔法が成就する前に、トールに最後のお願いをする。

『私がトールを忘れても、会いに来てね』

 こんなにもトールを苦しめておきながら、自分勝手で我儘なお願いを言うなんて、トールに呆れられても仕方がない、と思う。

『絶対行くよ……! ティナが何もかも忘れていたとしても、絶対に会いに行くから……っ!』

 だけどトールは金色の瞳を輝かせ、はっきりと約束してくれたのだ。

 ティナはトールの言葉が本当に嬉しかった。きっとトールなら約束を守ってくれる、と心の底から信じられる。

『……うん。待ってる』