月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

『──僕はトールヴァルド・ビョルク・クロンクヴィストだよ』

 綺麗な金色の瞳をした、あどけない少年がティナに微笑みかける。

(……っ、ああ、本当に……私はトールと出会っていたんだ……っ!!)

 ティナの頭の中で、記憶が走馬灯のように次々と流れて行く。

 ──同じ年頃の子供と一緒に旅ができると嬉しかったこと、父に剣を教えて貰うトールが格好良かったこと、手を繋ぎながら輝く星を眺めたこと──……。

 どれも楽しかった、幸せな記憶だ。

 そして記憶の復元は進んでいき、幸せだった日々の記憶は終わりを告げる。
 次々と暗殺者がやって来て父や母、優しいおじさんたちに襲いかかって来るのだ。

 ティナはトールに抱きしめられながら、幌の中で剣戟の音が止むのをひたすら待っていた。

 そんな日がしばらく続き、父は疲労し母は倒れ、おじさんたちの怪我が増えていく。

 恐怖と不安が入り混じる中で、ティナは自分が何も出来ないことをもどかしく思う。