月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 少しのミスで廃人になる可能性がある大変危険なものだが、今のティナに迷いはない。

「──ふぅ……」

 ティナは心を落ち着かせ、自分の周りに小さい結界を形成する。そして意識を集中し、自分の中に神聖力を注ぎ込んでいく。

「……っ、く……っ」

 神聖力が脳を駆け巡る感覚に、神経がザワザワする。頭痛と眩暈でクラクラするが、ティナは構わず神聖力を流し続け、記憶痕跡へと辿り着いた。

 さらにティナが集中して記憶痕跡を探ると、ぽっかりと空いた、空白部分を見つけ出す。

(──ここだっ!!)

 ティナは無意識にそこが消された記憶があった箇所だと理解する。

「我が力の源よ 慈愛の光となりて 聖浄と癒しを与え給え <クーラティオ・ケルサス>」

 そして最上級治癒魔法の呪文を唱えると、その空白部分に神聖力を全力で叩き込む。

「……ぅあ……っ!」

 ティナが神聖力を叩き込むと、記憶痕跡の空白だった部分が治癒されていく。と同時に、失った記憶が再生され、膨大な量の情報がティナの頭の中を埋め尽くした。

 魔法は無事成功したようで、ティナは次々と失われていた記憶を取り戻していく。