月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 正直、ティナは信心深い訳ではないが、一応聖女として神殿で過ごしたこともあり、ラーシャルード神に対する信仰心もある程度持っている。
 しかし、先ほどの話を聞いてしまうと、<聖女>──自分の存在が、国の精神的発展の妨げになっているのではないか、と思ってしまう。

「わふぅ?」

 ベッドにうつ伏せになったまま、動かないティナを心配したらしいアウルムが、ベッドに前足を乗せてひょっこりと顔を出した。

「あ、ごめんねアウルム。何でもないよ」

 ティナはアウルムの瞳を見て、ふとトールの瞳と綺麗な顔を思い出す。

 最後に見たトールの悲しそうな表情を思い浮かべると、胸の奥がズキっと痛む。けれど、ティナがトールのそばにいる限り、彼はいつまでも過去に囚われたままだろう。ならば今は、離れる方がお互いのためになるに違いない。
 それにティナの気持ちの整理が着く頃にはきっと、トールも冷静になっているはずだ。