月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 ティナが五歳の頃、両親と一緒に隣国クロンクヴィストへ旅行に行ったことがあった。それは、その昔精霊が住んでいたと伝えられている湖を探す目的もあったという。
 きっと両親はそうして旅行と言って、月下草の自生場所を探しに世界中を巡っていたのだろう。

 そして旅の途中の隣国からの帰り道、両親は盗賊に襲われている商隊を発見し、助けに向かったのだが、不意打ちにあったのか二人共が命を落としてしまう。

 高位の冒険者二人を殺害出来る盗賊達を、冒険者ギルドはただの盗賊ではないと判断し詳しく調査したものの、盗賊達の死体からは身元に関する情報など一切判明しなかった。

 事件当時、ティナは商隊の子供らしき男の子と一緒に保護されたのだが、目を離した隙きにその男の子は姿を消してしまった。
 まだ幼かったティナは両親の死にショックを受けたのか、その時のことを覚えておらず、結局この事件は迷宮入りとなる。

 未だティナには事件の記憶が無いけれど、それでも両親に可愛がられ、愛情をたっぷりと注がれて育てられた記憶は残っていた。大好きな両親はティナの自慢だったのだ。

「……私、この種を育てみたい……!!」

「え」

 世界中を旅してまで、ティナの両親は月下草の自生場所を探していたらしい。その想いの強さは沢山メモがされている紙を見れば一目瞭然だ。