まさかフロレンツや貴族たち、フェダールまで留学に反対するとは思わなかった。
 特にトール至上主義のフロレンツは強く反対し、同行を申し出るほどだ。

「……国の未来を担う者であれば、もっと広い世界で見識を深めるべきだと思います」

「兄上。貴方には僕のためにもこの国に残り父上の補佐をお願いしたいのです。これは兄上にしかお願い出来ない、重要なことなんです」

「留学の際には、もちろん身分を隠すつもりですのでご安心ください」

 トールはそれっぽい、ありきたりな言葉でフロレンツたちを説得した。

「トール……っ!! 僕を頼ってくれるんだね!!」

「おお……さすがトール様……! この国のために敢えて苦難の道を……!」

 普段からトールを崇拝する勢いのフロレンツや貴族たちは、その言葉にコロっと乗せられ、今度はトールの留学を応援してくれるようになる。

 しかし、邪魔者たちを黙らせることに成功し、安心したのも束の間、トールはティナがセーデルルンド王国王子の婚約者に選ばれたと知り、ひどくショックを受けてしまう。

(もし王子との婚約がティナの望んだことなら……っ、いや、でも……っ!)