自身がトールに魔法を教えたのはほんの少しの期間だけで、ほとんどトールが独学で魔法を身につけたことをフェダールは知っている。それがどれだけ稀有な才能なのかも。

 だからトールはその強い意志を以て、必ず魔法を成功させるだろうという確信があったのだ。

「……ティナ。ごめんね」

 トールは眠っているティナに謝罪する。

 それはティナに無断で大切な記憶を消すことと、ティナを守りきれなかったことに対する謝罪なのだろう。

 そうしてトールが魔法を行使するために魔力を練り上げていた時、魔力に反応したのか、眠り続けていたティナの目がうっすらと開いた。

「ティナ!」

 目が開いたものの、やはりティナの目は虚ろであったが、トールの声が届いたのだろう、ティナの目がトールを映した。

「……トールっ、トール……っ!」

 ティナの目からぽろぽろ涙が零れ落ちる。

「うん、ここにいるよ。もう大丈夫だよ。怖くないよ」

 トールはティナの手を握り安心させようと声を掛けるが、それでもティナは涙を流し続ける。

「……っ、嫌だ……っ! 嫌……っ!! 死なないで……っ!!」