「はい。少女が体験したトラウマとなる部分の記憶を消去するのです。荒療治となりますが、酷い記憶を持ち続けるよりは……」

 トールはフェダールの提案した方法について考える。

 確かに、心の傷を負ったティナは、これから先もずっと苦しめられるだろう。
 だけど、それは両親と過ごした思い出の一部を──何より、トールのことを完全に忘れてしまうということなのだ。

「……っ、僕は……」

 トールは、ティナに自分のことを忘れられることが死ぬほど辛かった。
 しかし、夢の中でも苦しんでいるティナを救えるのなら──またティナが笑ってくれるなら、自分の抱く寂しさなんて、ほんの些細なことなのだと思い直す。

「……わかりました。ティナの記憶を消します」

 ──そうしてトールは、大切なティナのために、自分の感情を押し殺し、彼女を守る方法を選んだのだった。