例えば、風の魔法を使えば身体を切ることが出来る。しかし男たちが刻まれた時、風は全く吹いていなかった。気が付けばいつの間にか切り刻まれていたのだ。

 自分が知っている常識を遥かに超えた、未知の力で男たちは殺されたのだ──と、貴族の男は理解した。

 この場から今すぐ逃げたくても、恐怖で身体が竦んでしまい、動けない貴族の男は、更に信じられない光景を目撃する。

 ナイフで刺されたトールの身体が光に包まれたかと思うと、みるみる内に傷が癒されていくではないか。

「こ、この力は、まさか──?!」

 いつか噂で聞いたことがある、奇跡の存在が齎す聖なる力を目の当たりにした貴族の男は歓喜した。あの娘を捕まえれば、聖なる力を我が物に出来る、と。
 しかしそれは大きな間違いだったと気づく前に、男の視界がぐるんっ、と反転する。

「え──」

 首から大量の血が吹き出す身体が、貴族の男の視界に入る。その身体が身に付けている服は、とても見覚えがあるもので。

 ──貴族の男はようやく、自身の首が落ちたのだと理解したのだった。