月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 ふと、腕の中にある心地よい温もりに目を向けると、ずっと眠っていたティナがもぞもぞと動き出した。そろそろティナの目が覚めるようだ。

 トールはこの状況をティナにどう説明しようかと思い悩む。
 まだ何も知らないティナに、ヴァルナルとリナの話をするべきかどうか躊躇っていると、魔法の効果が切れたのだろう、ティナが目を覚ました。

「……ん、トール……?」

 ティナの綺麗な緑の瞳が、トールをまっすぐ見つめてくる。

 トールはティナにヴァルナルたちの話を聞かせ、その澄んだ瞳を曇らせてしまうことを想像すると、胸が押しつぶされそうに痛んだ。

「?! どうしたのトール?! どこか痛いの?!」

 ティナがトールの顔を見て驚きの声を上げる。気を付けていたつもりが、つい表情に出てしまったらしい。

「……ティナ、僕は大丈夫だよ。だけど……っ」

 言い淀む様子のトールと、今いる場所に気がついたティナは、この状況がとてつもなく悪い状況なのだと、本能的に気がついた。
 そして自分が知らない間に、トールがとても大変だったことも。

「……っ、ぐす……っ、ぐすっ、うぅ、うゔ〜〜〜〜〜っ……」