月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 そして絶望という名の穴にトールが落ちそうになった時、ティナが身動ぐ気配がして、トールの意識が引き戻される。

「……ぁ……ティナ……」

 自分の腕の中で眠る愛しい存在が、トールの心を現実に引き留めた。

 そしてヴァルナルとリナ、それぞれと交わした約束が闇を照らす光となって、見失い掛けた道を指し示す。

 ──そうだ、自分は何としてでも生きなければならないのだ──ティナを守るために。

 生きる意味を見つけたトールは安堵したからか、それともティナの少し高い体温を感じて緊張が解けたのか、急激に睡魔に襲われてしまう。

(……少しだけ眠ろう……。そして起きたら、その時は──……)

 ──もう二度と絶望なんかしない、と心に強く誓いながら、トールは眠りについたのだった。




 * * * * * *




 深い眠りから目が覚めると、夜はすっかり明けていて、穏やかな太陽の光が森の中を照らしている。

 まるで昨日の出来事が夢のように、森の中は静寂に包まれていた。