月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

「ありがとうな。お前が守ってくれるなら安心だ。……そんなお前に、ティナのことで話しておくことがある」

 どうやらこれから話す内容こそが本題だったようだ。トールは思わずごくり、と息を飲んだ。

「実は……ティナはかなり強い神聖力を持っていてな。ラーシャルード教の奴らがティナを<聖女>として取り込もうと躍起になっているんだ」

「え……っ!! <聖女>っ?!」

 幼くても王族として厳しい教育を受けて来たトールは、もちろん<聖女>について教えられている。その存在がどれほど貴重なのかも。

「……ああ、世間では神に選ばれた娘だとか言われて崇められている<聖女>だが……。俺からしたら、あんなのただの生贄だ。俺は大事なティナを生贄にするつもりはないんだよ」

「い、生贄……っ?!」

「そうだ。<聖女>は神聖力を供給するための装置みたいなもんだ。神殿に良いように扱われ、自由がない生活を強いられながら一生過ごさなければならない……。そんな人生を可愛い娘に──ティナに送らせたくないんだ」

 ヴァルナル一家がずっと旅を続けているのも、ラーシャルード教からの要請を避けるためらしい。