月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

「ああ、ティナも眠ったのか。トール、お前も今のうちに眠っておけよ。もうすぐ辺境の街に着く。そこまで来たら、あいつらもそう簡単に手が出せないからな。それまでの辛抱だ」

「でも、ヴァルナルさんは……? もう何日も眠っていないんじゃ……!」

 トールが言う通り、ヴァルナルの顔には疲労の色が滲んでいる。彼だっていつ倒れてもおかしくないぐらいなのだ。
 それなのに、何の関係もない彼らを巻き込んだ自分が、のうのうと眠れるわけがない。

「子供が大人の心配なんてするな。それに今は結界の魔道具を発動させたから、しばらく襲われることはないはずだ」

「本当……?」

「ああ、使えるのは一回だけだが、その分強力だぞ!」

 ヴァルナルはもしもの時を考えて、結界の魔道具を用意していたらしい。しかしそのような魔道具はかなり高価で、しかも効力は一回限りしかない。
 だからヴァルナルは、いざという時に使おうと取って置いていたのだと言う。

「良かった……!」

 トールはホッと肩の力を抜いた。すると、無意識に力を入れていたらしく、自分の身体がガチガチになっていたことに気付く。