「あれぐらいの酒で私が酔う訳ないだろう? こいつらがまだまだ未熟なだけだよ」

 ティナは昨日の宴の様子を思い出す。
 昨日はベルトルドも珍しくお酒を大量に飲んでいた。それこそ、そこに転がっている冒険者達より飲んでいたかもしれない。

(ランクが高いとお酒にも強くなるのかな……?)

 全く隙がないベルトルドを不思議に思いつつ、ティナは今のこの状況をどうにかせねば、と考える。それはベルトルドも同じだったようで、呆れた顔でホールを見渡している。

「……流石にこの状態は見苦しいね。ティナ、すまないけどこいつらを起こしてくれないかな」

「わかりました。では、<ヒール>!!」

 ティナが魔法名を唱えると、手のひらから光が溢れ、粒子となって冒険者達に降り注ぐ。

 これは<神聖力>を持つ者が使える治癒の魔法で、本来なら呪文を詠唱する必要があるが、ティナは魔法名を唱えるだけで魔法を発動することが出来た。
 詠唱破棄で魔法を使えるのは、この世界広しといえど、ティナを含めて十人にも満たない。それはティナが<稀代の聖女>と呼ばれる所以でもある。

「……あれ? ここは……」

「う〜ん、頭痛が……ってあれ? 痛くない?」

「お……? 身体がスッキリしてる?」

 酒に潰れ、寝っ転がっていた冒険者達が次々と目を覚ましていく。ティナの魔法は効果覿面のようだ。