月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 不思議そうな表情を浮かべているティナを見て、トールがふっ、と微笑んだ。

 少し笑っただけなのに、その笑顔の破壊力は強烈で、ティナはトールが素顔を隠していた理由の一端はこれか、と納得する。
 今まで何度も見たトールの笑みに、こんな圧倒的美貌が隠されていたとは……学院中の誰もが思わなかっただろう。

「俺が顔を隠していたのは、ティナのそばにいるためだよ」

「……え」

 ティナはトールの言葉に驚いた。
 そしてトールがティナに言った、今までの言葉が頭の中に浮かび上がると、それぞれの言葉が繋がって一つの答えを導き出した。

「やっぱり昔に、私はトールと会ったことがあるの……?」

 トールがティナに優しく接してくれていた理由を、ティナはずっと不思議に思っていた。
 彼は学院で初めて会った時からずっと、ティナに好意的だったからだ。
 それはティナが<聖女>だからでも、王子の婚約者だからでもない、親しみが籠ったもので。

 ──確かに、以前からそんな疑問はあった。
 しかし、いくら思い出そうとしても、まるで頭に靄がかかったように何も思い出せなかったのだ。