ティナが心の中でそんなことを考えている内に、モルガン一家が休んでいる野営地に戻ってきた。

「明日はクロンクヴィストに到着するだろうし、今日は早めに休もうか」

「そうだね。じゃあ、ゆっくり休めるように結界を重ねがけしちゃおうかな」

 トールの提案にティナは頷くと、何者にも邪魔されず眠れるようにと、強力な結界を張るために精神を集中させる。

「慈悲深き神の加護をこの地に与えん──<カエレスエィス>」

 いつもの結界魔法と違う幾重にも重なった結界は、もはや結界というよりは空間を切り取ったかのようだ。
 かなり短縮したとは言え、珍しく呪文を唱えた魔法なだけあって、その効果は時空を捻じ曲げるほど強力であった。

「……ティナ、これって……」

 流石のトールもティナの結界──次元断層に絶句した。

 時空間魔法は神の領域として、未だその原理は解明されていない。それなのにティナは減殺した呪文であっさりと魔法を行使したのだ。

 ──これこそが、ティナを<稀代の聖女>とたらしめる奇跡の力なのだろう。

 だからこそ、アレクシスや聖国は卑怯な手を使ってでも、ティナを我が物にしたかったのかもしれない。

「私が使える結界でも一番強いやつなんだ! 外からは絶対気付かれないし、癒やしの効果もあるから、不眠症の人でもあっという間に眠りにつけるし、ゆっくりと休めると思うよ!」

 ティナにとっては人知を超えた超越魔法も、ただ便利な魔法という認識しかないようだった。
 しかしトールはそんなところがティナらしいな、と思う。