トールの過去がどうあれ、彼は生きるために強くならなければいけない環境にいたのだ。そんな状況でトールがここまで強くなったのは、彼が相当努力したからだろう。

「え、えっと……。その、すごく大変だったでしょ? よく頑張ったね」

 だから生きる努力をしたトールを、ティナは褒めてあげたくなった。

「……っ、ふふ。有難う」

 返事に困っているティナが可愛かったのか、褒められて嬉しかったのか、トールの口から笑い声が漏れる。

 トールの目は見えないのに、何故か見つめられているとわかってしまう雰囲気に、ティナは別の意味で困ってしまう。

「約束したからね。絶対死なないって」

 不意に、トールが呟いた。

「約束……?」

 その呟きを聞いたティナが、トールの顔を仰ぎ見ると、何となく彼が遠い目をしていることに気付く。

「……うん、昔にね。とても大切な人と約束したから。だからその人ともう一度会うために、俺は死ぬ訳にはいかなかったんだ」

(トールの、大切な人……)

 大切な存在がいるということは、その人にとって、とても幸せなことだとティナは思う。だけど、トールにそんな存在がいると知ったティナの心は、そんな思いとは裏腹に傷付いたかのように痛む。

「……そう、なんだ……」

 ティナは胸の痛みを堪え、何とか言葉を絞り出す。

「……その人とは、もう会えたの……?」

 もしかするとトールの大切な人とは、家族や友人のことかもしれない。
 しかし、命を掛けるほどの強い想いをその人に向けるトールに、ティナは言いしれない寂しさを抱く。

 ──ずっと自分だけが、トールの特別なのだと思い込んでいたのだ。

 自分の勘違いに気付いたティナは、羞恥心でどうにかなりそうだったが、そんなティナに気付くはずもないトールが、「それは──」と答えようとした時、ティナの腕の中にいたアウルムが「くぅん……」と目を覚ました。