月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

「え? いや、決闘するよ。そんなことより、こっちの条件なんだけど」

「なっ?!」

 トールに最大の慈悲を与えたつもりだったアレクシスは絶句する。

 聖騎士との決闘で勝利した者はいない。大抵の者は命を落とすか、許しを請うて決闘を避けるからだ。
 ちなみに許しを請うて決闘を避けたとしても、大きな代償は支払わなければならない。

 アレクシスが驚く様子を気にすること無く、トールは条件を提示する。

「俺が勝ったら命を助けてやる代わりに、アコンニエミ聖国とセーデルルンド王国が二度とティナに関わらないよう協力すると約束すること。ティナはもう聖女じゃなくて冒険者なんだ。彼女の意志を尊重して欲しい」

「そ、それは……っ!! 私の独断で決めていいことでは無い! まずは大神官様にお伺いしないと……っ」

 聖女とは、ラーシャルード神から愛され、神聖力と治癒の力を授けられた選ばれし者のことだ。
 その存在はラーシャルード神が齎す奇跡の体現であり、ラーシャルード教の総本山であるアコンニエミ聖国の教皇や大神官たちにとっても、最優先で保護すべき対象なのだ。

 聖女は本来、聖国の大神殿で神に祈りを捧げながら余生を過ごすのだが、当然全ての聖女が聖国で産まれるわけではない。
 聖国以外で生まれた聖女は、その国が手放さない限り、出身国の神殿預かりとなる。
 しかし貴重な聖女の中でも、突出して能力が高いクリスティナを巡り、アコンニエミ聖国とセーデルルンド王国は常に張り合っていた。