この国を瘴気から守る役目を負う聖女の失踪など前代未聞であった。近隣諸国に知られれば冷笑されるだろう。
 聖女を我が手に、と望む者は世界中にいる。隙あらば取り込もうと欲する国も一つや2つではない。
 ラーシャルード神を崇拝する宗教の総本山があるアコンニエミ国からも、聖女の身柄を渡すように、と通達が何度も来るほどだ。

 クリスティナとフレードリクの婚約も、フレードリクからの強い希望があったものの、本当の目的はクリスティナをこの国に繋ぎ止めておくための楔だったのだ。

「そしてフレードリク殿下ですが、現在精神的ショックを受け療養中です。お連れしても会話にならないかと」

 オスカリウスの怒りを買ったフレードリクは、殺気が混じった怒気の直撃を受け、それがトラウマになったらしく、部屋に籠もって出てこないらしい。

「何ということだ……!」

 グスタフは絶望的な事態に頭を抱えこむ。
 しかし、こうしてはいられないと思考を切り替えると、参事官へと指示を飛ばした。

「……とにかく、使える人員全てを動員し、クリスティナ嬢の行方を追うのだ!!」

「かしこまりました」

 参事官が退出すると、入れ替わるかのように側近が急いで入ってきた。