月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

「……お通ししろ」

「かしこまりました」

 神官が部屋から出てしばらくすると、この国の王子であるフレードリクが見慣れぬ少女と共に入ってきた。
 二人を見たオスカリウスの顔が一瞬だけ歪む。二人の間に流れる雰囲気を見て、嫌な予感がしたのだ。

「……これはこれは、フレードリク殿下。わざわざこのような場所までご足労いただき有難うございます」

「いや、大神官殿は多忙でおられますからな。お気になさらずとも結構ですよ」

 オスカリウスは以前からフレードリクの態度が気に食わなかった。王族でさえ大神官には頭を垂れるほど、大神殿の権威は非常に強いのだ。
 しかし今日のフレードリクはいつにも増して尊大であった。きっとここへ連れてきた少女に良いところを見せたいのだろう。

 クリスティナという婚約者がいながらコイツはどういうつもりだ、とブチギレそうになるのを何とか押さえ、オスカリウスはさっさと用件を聞くことにした。

「……して、この度は何用でお越しになられたのですかな?」

「はい。本日私は偽の聖女、クリスティナから聖女の称号を剥奪し、更に婚約破棄を言い渡しました!」

 オスカリウスは堂々と胸を張ってそう言い切るフレードリクに、一瞬何を言われたのかわからなかった。

「……」

 周りの神官たちもあまりのことに絶句している。
 先程まで慌ただしかった神殿内が、フレードリクの言葉でシン……っ、と静まり返った。