月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 先程まで溢れていた光が少なくなっていき、魔法陣が消えていった。どうやら無事に獣魔契約が完了したらしい。

「……ふう。終わったよティナ。アウルムもティナを主と認めたみたいだよ。良かったね」

 かなり魔力を消費したのだろう、いつも飄々としているトールが珍しく気怠げだ。

「トール大丈夫?!」

 ティナは慌ててトールに駆け寄った。もしかするとトールの魔力が枯渇した可能性があるのだ。

「うん、大丈夫だから……」

「でも……っ」

 獣魔契約には魔術師が三人必要だ。それは即ちトールが三人分の魔力を消費したことになる。学院でも一、二を争う魔力量を誇るトールでもかなり厳しかったはずだ。
 しかも予め設置している魔法陣を使うところを、自前の魔力で魔法陣を描いたのだ。その魔力の消費量は量り知れず、一般人であれば魔法陣を描くことすら出来なかっただろう。

「少し休めば回復するから、心配しないで」

 トールはティナを安心させたくて笑顔を浮かべる。しかし、顔が半分隠れているので、上手く伝わっていないかもしれない。
 こういう時素顔が晒せればいいのに、とトールは歯がゆく思う。

「私が回復するよ! あ、えっと……そのためにはトールに触れないと駄目だけど……」

 聖女であるティナなら、トールの魔力を回復させるのは簡単だ。しかしその場合、回復させる対象に触れる必要がある。
 触れる場所は手でも頭でもどこでも良いのだが、トールのことを好きだと自覚したティナは変に意識してしまい、顔が真っ赤になっていた。