月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 モルガン一家とティナたちの旅は順調で、心配されていた強力な魔物、ステュムパリデスとシェロブに遭遇することなく、クロンクヴィストの国境に近付いていた。

 新たな同行者はその愛らしさで、すっかりモルガンたち一行の癒やしとなった。それはとても嬉しい誤算だったが、アネタはアウルムにべったりで、ティナが寂しく感じるほどだ。

 しかし、そんな可愛いアウルムも魔物であることは変わらない。いつ瘴気を帯びて凶暴化するかわからないのだ。
 ティナはアウルムが凶暴化しないように、<神聖力>で毎日アウルムの浄化を続けていた。

 ──そしてある日、ついに新月の夜がやって来た。

 ようやくティナはイロナに占って貰えることになったのだが、これからのことや結果のことが気になって、柄にもなく緊張しているようだ。
 大神官から聖女の称号を与えられた時でも、こんなに緊張したことはなかったのに……とティナは思う。

「フフ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ」

「いや、でも、イロナさんの占い、すごく当たるって評判だったって聞いていますし……」

 イロナは不思議な雰囲気を纏っていることもあり、占いとか関係なく彼女の言葉には、何かの力が宿っているような気になるのだ。
 聖女だと持て囃されていた自分より、イロナは余程聖女らしい。