月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

「うふふ。そりゃ、顧客から色々聞かせて貰ったからね。私のお客さんには結構貴族が多かったのよ」

 凄腕占術師のイロナに占って貰うには結構な労力が必要だ。確かに貴族であれば、その労力を惜しむ必要はない。
 そしてイロナは顧客の相談にもよく乗っていたらしいので、それこそ色んな情報を手にしていたのだろう。

 ティナは改めてイロナのすごさに感心した。そして魔物の子供に好意的なことに気付き、魔物の子供について聞いてみることにした。

「えっと、この子もクロンクヴィストまで連れて行ってもいいですか……?」

「ええ! もちろんよ! アネタもすごく喜ぶわよ! 私もその子を抱っこしたいわ!」

 イロナからも許可を貰え、ティナはようやく安心することが出来た。

 たとえ反対されたとしても何度も説得しようと思うぐらい、ティナは魔物の子供と離れ難かったのだ。

「良かった……! じゃあ、この子に名前をつけてあげないと。ねえ、トール。どんな名前がいいと思う? ……って、どうしたの?」

 ティナがトールを見上げると、彼は手を口に当てて何かを考え込んでいた。ティナはそう言えばさっきからずっと無言だったな、と思う。

「……あ、何? ゴメン、考え事してた」

「うん、えっと、この子の名前なんだけど、どうしようかなって」

「そうだなぁ……」

 トールが魔物の子供をじっと見る。