月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 エヴェルス国がある南の方は小さい国が多く、名前も似たような感じなので覚えるのが大変であった。学院の授業でも学生泣かせの地域だと揶揄されていた。

「おうおう、この料理は出来たてを食べなきゃ駄目なんだよ! ほら、食おう食おう!」

 モルガンが促し、ティナたちをテーブルに着かせると、早々に夕食が始まった。
 イロナが配膳し、皆んなに料理を配っていく。

「たくさん食べてね。お口に合ったら嬉しいわ」

「はい! いただきます!」

 ティナは喜々として料理を口に運ぶ。
 元聖女で王妃候補だったティナは、貴族並みの扱いを受けていたが、元々食べることが大好きなので、貴族が口にしないような料理でも平気で食べる。
 好奇心旺盛な性格もあるが、食わず嫌いは損をすると知っているし、食べ物に対する感謝の気持ちもちゃんと持っているのだ。

「……! 美味しい……っ!!」

 トールが言っていたように、イロナの料理には香辛料がふんだんに使用されていた。しかし、ただ辛いだけではなく、甘味が上手く調和されている。
 そんなスパイシーでありながらまろやかな味わいの料理に、ティナはすっかりやみつきになっていた。