「私、そんなに嬉しそうですか?」

絆は顔にそっと触れる。今、自分は笑ってはいないはずだ。だが目の前にいる彼女は言う。

「顔を真っ赤にして、必死に誤魔化そうとして、でも目はどこか嬉しそうで、恋する女の子って感じよ」

悪戯っぽくエマは笑う。絆は両手で顔を覆い、「勘弁してください」と消えてしまいそうな声で言った。もしも心理戦になった場合、まだ学生という立場の自分が負けてしまうのは明白だ。かと言って、オスカルの同僚であるエマにこの複雑な気持ちを話すにはまだ勇気が足りない。

どうしようかと絆が考えていると、ポンと頭に手を乗せられる。エマは「ごめんね、揶揄いすぎた」と謝り、いつもの表情へと戻った。

「今はプライベートだし、深掘りはしないでおくわ。でも何かあったら相談してね?事件のことでも、恋のことでも」

パチン、と至近距離でウインクを送られて絆は瞬きをする。エマが「お手洗い行ってくるわ」と言って席を立った後、絆はゆっくりとため息を吐いた。