* *

今となってはその少年は、どこにいるかわからない。


風の噂によれば彼は地元から消えた、らしい。


あたしはその地元の人間じゃないので、よくわからないけれど。


相当タチの悪い存在だったから、今では刺青でも彫ってヤクザにでもなっているのだろうか。


「ねえ、雪村さん…意識ありますか?」


花坂さんの可愛らしい声で、現実に引き戻された。



「……え、あ、あるよ?」


どうやらあたしが上の空だってこと、見抜いたらしい。



「だから、あたしは今でも如月君が大好きです。愛してます…」


花坂さんは笑顔でそう言う。

だけど、握る拳は震えていた。


あたしだって、蓮が好き。


「だから、如月君には笑っていてほしいんです」


そういった花坂さんの瞳からは、光る涙が姿を見せる。



……花坂さん…。


花坂さんは、強いよ…。


……それに比べてあたしは…。


「ねえ、花坂さん…」


「あっ!!ちょっと待って!!」


あたしが花坂さんにありがとうと言おうとしたとき、花坂さんの甲高い声によって塞がれてしまった。