僕は待っていたんだ。

 知らず知らずとはいえ、彼女の寿命が尽きるまでの六十七年を、天使業をしながらずっと待っていた。次の世で彼女と同じ時を生きるために。

 僕は彼女を抱きしめ、「行こう」と囁いた。

 ーー最後の魂を輪廻転生の道へ乗せるんだ。

 そう決意した時。突然周囲が明るくなった。

 彼女の魂と離れ離れにならないよう、ギュッと手を握り合う。目映い光に自然と目蓋が下がった。

 僕たちは光の渦に吸い込まれていた。

 閉じた目を開けると、予想通り、神様のお膝元に立っていた。

 永年僕を働かせてくれた二枚の白い羽も、もうない。

 僕は隣りの彼女と同様に、丸い魂だけの存在だった。

『9万9千1の魂を、よくぞ送り届けた。これより輪廻転生の道へと進むが良い』

「ありがとうございます。ですが、神様。最後に一つだけ確認させて下さい」

 僕は己の意思に従って言葉を発した。

「9万9千1と条件を付けたのは、彼女と共に歩む人生を僕に与えて下さった、そういう解釈で合っていますか?」

 神様は光だけの存在で、何も答えなかった。

 返事は貰えなかったが、代わりに白い扉が眼前に現れた。

「行こう」

 僕は彼女の魂と並び、光の中を進んだ。


〈了〉