彼は青ざめた顔で持ち手を離した。一歩二歩と後退し、その場に尻餅をついた。自分が犯した過ちに打ち震えていた。

 騒ぎを聞きつけた屋敷の使用人が、彼を取り押さえている。

 僕は苦しさに呻き、地面に膝を付いた。

「倫太郎さんっ、いやだ、お願いっ、死なないで!」

 絹子さんは僕の腹部を両手で押さえ、泣きじゃくっていた。

 そんな表情すらも愛おしく、僕は彼女を見て無理やり笑みを添えた。

「よ、かった……キミが……無事で」

 呼吸が荒く、喋るのすらままならない。僕は薄れゆく意識の中で、ああ死ぬのかと思った。

「倫太郎さんっ!」

 彼女は「死なないで」と何度も哀願し、死にゆく僕を抱きしめていた。

 ーー来世では、必ず一緒に。

 ほとんど声にはならなかったが、僕は最後の力を振り絞って、彼女の耳元にそう囁いた。

 それが僕の最期だ。