「ひさしぶり」

少し上擦た声になったのは真紀の姿に見惚れたからだ。七年の月日が彼女を磨き、さらに美しくしていた。

「永井君、変わらないね。良い意味でよ」

「真紀こそ……。いや、変わったな。良い意味で」

「どう変わった?」

少し首をかしげて覗き込む彼女のこの行動は無自覚か。それともあざとさか。それでも俺は素知らぬ振りで答えた。

「化粧が上手くなったかな」

「うん、それよく言われるけど、地が良いって受けとめているわ」

このやり取りは彼女に一枚上を行かれたようだ。

こうして再会のファーストコンタクトを済ませた俺たちは、彼女がよく行くという沖縄料理の店に向かった。

ほどよく繁盛する店の奥の個室に案内され、荷物を下ろして席に着く。そこまでで俺たちは近況報告を済ませた。

俺の場合は就職先やひとり暮らしの住まい。ジムに通っていることなどだ。対して真紀がボルダリングとアーチェリーをやっているということに俺は驚いた。

「自分磨きよ。それと趣味の一環ね」

本物の美人は『美』に対する意識も高い。俺はいつか書くかもしれない小説のネタにするため、この事実を頭の引出しにそっとしまった。

ひと通り料理を注文し、飲み物が届いたところで俺たちは再会の乾杯をした。

「高校生だった私たちがお酒で乾杯する日がくるなんて、ちょっと感慨深いものがあるな」

たしかに感慨深い。だけど、俺の場合は想い人との乾杯という意味でだ。

「真紀は高校の友達と飲まないの?」

「たまに会うけど昼間だから。お酒は飲んだことないわ」

「永井くんはよく会うの?」

「ぼちぼちね。でもニ、三人だよ。よく会う奴でも年に三回くらい。あと、俺はお酒弱いから飲むために会うみたいなのはないんだ」

こんな話から始まった会話の内容は、どんどん時間をさかのぼり、高校時代にクラスの男女十二名で夏の花火大会に行った話になった。

「高二の夏、最期の花火大会だったけど、あの頃の私たちはほとんど話してなかったよね」

「夏休みに文化祭の計画で集まったときに、何度か話したくらいかなぁ」

「私たち、同じ中学だったのにね。ちゃんと話し始めたのは高一の冬だよ。覚えてる?」

「みんなでクリスマス会をやろうって計画で、一緒に幹事をやったからだろ。そりゃ話すさ」

忘れるはずもない。このとき、俺はようやく真紀とまともに話をすることができたんだからと、過去の切なくも、ささやかな幸せを思い出した。

「私とあなたと合わせて五人でいろいろ話したよね。おかげで楽しいクリスマス会になったなぁ」

「いい思い出だよ」

真紀が俺と同じようにあの頃を懐かしんでくれることは嬉しい。こういったことをあの頃に感じられたら、もっと距離を詰められたのかもしれないと、少しだけ胸が痛くなった。そして、その痛みがアルコールとブレンドされて俺を一歩進ませる。

「たしか今週末に、高校のときに行ったのと同じ花火大会があったはずだ」

俺は検索しようとスマホを出してみた。

「電波悪くてアンテナ立ってないや」

「月末の花火大会よね? たしかにあったと思うわ」

「一緒に行かないか?」

これはアイさんを誘おうかと思っていたイベントだ。しかし、彼女はまだオーストラリア。真紀のことも了承済み。となれば、心に眠る小さな想いをどうにかするために誘っても問題ないはずだ。そのどうにかが燃え上がるのか、成仏するのか。どちらになるかまではわからない。

こんな誘いをすることはやましいことではないはずなのだが、胸の痛みが一割増した。

「いいね。予定もないから大丈夫。行きましょう!」

こうして俺たちは花火に行く約束をし、ついでにメッセージアプリのID交換も済ませた。