【八月十九日(金)】
アイさんと仲良くなったと実感した俺は少し砕けてしゃべるようになった。

通話ができるようになったことで文章では伝えるのが難しい感情も、言葉でなら伝えやすい。しかし、ハードルを越えて仲良くなったとはいえ油断はできない。さらなる好感度アップと親密度を上げるために、俺は行動を開始した。

「オーストラリア?」

「そうなんだ。遅ればせながらの夏休みで旅行中さ」

夏も終わろうかというこの時期に花火大会に誘おうと意を決して挑んだのだが、残念なことにアイさんは日本にはいなかった。

「二週間の滞在予定だけど安心して欲しい。君の小説もろもろの質問はいつでも受付中だ」

嬉しい意気込みだがそうじゃない。この夏にアイさんとの距離を詰めたかったのだ。

「二週間ってことは九月初旬か。まだ暑い時期だね」

「オーストラリアは冬だよ。でもわたしは北部にいるからそれほど寒くはない」

「帰ってきたらもうひと夏を体験しようよ」

俺としてはこんな感じでさりげなく誘うのが精一杯だった。

一旦話を終えて風呂をすませた俺は、寝る前にアイさんともう一度話せないかとスマホを開いた。すると、アプリの検索画面に表示された新着登録者になんとなく視線が引き付けられたのだ。その理由はその人をフォーカスした瞬間に判明し、反射的にタップしていた。

彼女のハンドルネームはMK。整った顔立ちに肩あたりまで伸びた黒髪。清楚な雰囲気は人柄と育ちの良さを感じさせる。『いいね!』の数は最大表記の五百件に達していることから、俺と同じように目に入った人は数知れない。だけど、俺の目がそこにいった理由はそうじゃない。

「真紀?」

彼女は俺の知っている人物だったのだ。少なくとも友人の枠組みには入っていると個人的には思っている。そして、学生時代に俺が想いを寄せていた人。

「なんで真紀が?」

この感想が出たのは、彼女ほどの人がマッチングアプリをする必要があるのか? ということからだ。スペックから考えれば引く手あまただろう。出会いに困るとは到底思えない。

七年経っているとはいえ、これが真紀だということはわかる。想い人だったからということを差し引いても間違えるはずもない。

「サクラ……。誰かが真紀の写真を使ってるとか?」

これが俺の思い至ったひとつの結論だ。そして、もうひとつの結論が浮かんだ俺はすぐにアプリを閉じた。

真紀の写真を見たことが俺の心の奥のなにかを刺激した。それはむずがゆいといった程度のことだったのだが、次の日には明確になって俺の胸で膨れ上がった。