駅に着き改札を出てすぐのところで真紀が待っていた。

「俺は食事はしてきたから軽くでもいいよ」と伝え、駅からほど近いファミレスに入ることにした。

会社の先輩の送迎会だったと告げたところで真紀のスマホに着信があり、「ちょっとゴメンね」と彼女は席を立つ。そのあいだ先日買ったラノベを読んでいると五分と経たずに真紀は戻ってきた。

「先輩が贈り物ありがとうって。喜んでもらえたわ」

「それは良かった」

ニコリと笑って返す俺に、真紀が戸惑った表情を見せる。

「どうしたの?」

「永井くん。そのラノベ」

しまった! そう後悔したときはすでに遅し。待ってる時間にと読んでいたラノベを見られてしまったことに、俺はおおいに慌てた。

「あぁこれね。うん、同僚に勧められてさ。ちょっと興味本位で」

そんな言い訳がましいことを言う俺に向ける真紀の表情は、俺が予想したものとは大きく違い、すこしだけ恥ずかしそうな表情から、最近覚えのある言葉が発せられた。

「私、実はね……、小説を書いているの」

真紀が? 小説? 読んでいるじゃなくて書いているって言った?

ここ数日で何度目の驚きだろう。そんな彼女に返したのは「俺もなんだ」という言葉だった。

真紀の告白に対して、俺も隠していた趣味をあかしたところで、またしても驚かされる返答がなされた。

「うん、知ってる。前から聞きたかったんだけど、まだ書いてたんだね」

ここまでの驚きで俺の寿命は何分くらい減ったのだろう。

「なんで知ってるんだ?! 言ったことあったっけ?」

小説仲間とラノベの話はよくしていたが、書いていることまでは知らないはずだった。

「高校のときに永井くんと友達が話しているのが聞こえたんだ。興味がない人にはわからないだろうけど、書いている私だからわかったの。友達と読み合いして、批評された内容に拗ねて口を尖らせてたよ」

そのときのことを語りながら真紀は小さく笑った。

「私は恥ずかしくて誰にも言わなかったわ。だから話してみたいと思ってたんだけどさ、小説を書いていることが私のキャラクターに合わないかなって……」

尻つぼみになっていく真紀の言葉。

真紀は見た目と違わず育ちが良い。それは言葉遣いから察せる。かといって回りと壁がある感じはせず、穏やかながらも明るくて接しやすい。

「たしかに小説を書いているって感じではないな。今聞いて驚いたし」

「それを知ったのが高校三年生の一学期終わり頃。すぐに夏休みに入ってしまって。受験もあるし、小説を書いてる時間もなかったけど、小説仲間に入りたくて勉強の合間に書き上げたんだ」

「夏休みに? それであの大学にも受かったの?」

「あっ、知ってたんだ。私が通ってた大学」

「まぁ。噂くらいは入ってきたから」

これは嘘だ。恋心を抱いていた相手の受験先ぐらい知っている。だけど、そんなこと恥ずかしくて言えない俺は、そっけなく答えた。

「だったら読ませてくれたら良かったのに。どんなの書いてた? ジャンルは?」

「ファンタジーよ。少々恋愛要素のあるやつ」

「俺が書くのと近いかな。でも俺のは恋愛要素はアクセントだけど」

「うん、それも知ってる。聞き耳立ててたから」

恥ずかしそうにそう言った彼女だが、聞かれていた俺はそれ以上に恥ずかしい。

「二学期に入ってもなかなか言い出せなくて。でも、いざって気合を入れて行こうとしたらね、別の子が話かけてたの。そしたら、その子の友達も集まってきて、ちょっとしたサークルになっちゃって」

話しかけるタイミングを失ったということらしい。

もし、そのとき真紀が声を掛けてきていたら、俺たちはどうなっていたのだろう。