【八月十三日(土)】
このご時世、彼女を作るのにマッチングアプリを使う人が増えている。

出会い系が『いかがわしいモノ』とされてきたひと昔前とは違い、現在は真剣に出会いを求め、彼女を作ったり結婚する人が多い。

その波が俺にも押し寄せてきたのだと理解したのは、同窓会で再会した友人たちがそのアプリで恋人を作っていたからだ。

晴翔(はると)もやってみ! 絶対いけるって」

「俺はいいよ」

「恥ずかしいことじゃないぜ。俺の職場でもやってる奴が多いし。まぁ遊びの奴もいるけどな」

「晴翔、純奈ちゃんと別れたんだろ? あの子、変わってるけど可愛かったよな」

「ちょっとスマホ貸してみろよ。今登録したら同窓会が終る頃にはひとつやふたつ『いいね!』されるって」

嫌がる俺の意見など無視する友人たちは、物は試しと半分無理矢理にスマホを奪った。

「ハンドルネームは……、永井晴翔(ながいはると)だからハルでいいか」

俺も多少お酒の勢いもあって仕方なく登録を許してしまった。

「んじゃ撮るぞ。ハイチーズ!」

メイン写真には少し赤らむ顔を載せ、俺のマッチングアプリが始まった。

「アプリ登録おめでとう! これで可愛い彼女をゲット確定だな!」

そう茶化される俺のところに女子が三人寄ってきた。

「永井くん、マッチングアプリ始めたの?」

「こいつらが勝手に登録したんだ」

やはりちょっと恥ずかしく思う俺は、登録した半分の理由で言い訳したのだが、実は以前からやってみようかと思っていたのだ。ただ、恥ずかしさと未知のモノに手を出す勇気が足りずに足踏みしていた。

「なんだ。もっと早く登録してくれたら私がマッチングしてあげたのに」

クラスでもけっこう可愛い彼女の言葉に少しだけ心が揺れる。

「ごめんねぇ。年末にアプリで彼氏ができちゃったんだ」

「いいよ、おまえは俺の理想と違うから」

「どんな人が理想なの?」

この問いに言葉を詰まらせると、古馴染みの悪友が俺に代りにその理想を羅列した。

「言葉遣いがきれいで、姿勢が良くて、健康的で、穏やかな性格で、それなりに可愛い子。だよな?」

「二次元の子? またはお嬢様系? そんな女性はなかなかねぇ」

「余計なお世話。みんなも理想くらいはあるだろ?」

たしかにこれは俺の理想だが、過去にこの理想に近しい人はいた。
中学から高校にかけて好きだった人こそが理想の子なのだ。正確にはその子が俺の理想になったとも言える。そして、その子は同じクラスだったため、この同窓会で会えることを少しだけ期待していたのだが……。残念ながら彼女は不参加だった。

卒業から七年ほどたったこの同窓会での出来事が、俺の人生で大きな意味を持つこととなる。