アキと向かい合って座る。

なんだか不思議な気分。

「でさ、まず忘れないうちに、こないだの封書の送料。さんきゅーでした。」

そう言いながら茶封筒を私に差し出した。

意外ときっちりしてるんだ。

「あ、どうも。」

私はその茶封筒を自分の前に引き寄せた。

あえて中身は確認しなくても大丈夫なような気がして、そのまま自分のバッグに入れようとしたら、

「あ、ちょいまった。」

とアキに止められる。

「その封筒の裏見て。」

言われるがままに封筒をひっくり返す。

「そこに書いてあるのが俺の携帯番号。」

封筒の裏には、携帯番号が書かれていた。

慌てて書いたのか、無造作な丸文字。

それにしてもなんて用意周到な・・・。

「なんか笑える。」

思わずアキの几帳面な意外性に吹き出した。

「何かおかしいことしましたっけ?」

アキは不満そうにほおづえをついた。

「いえいえ、確かに頂きました。」

と、今度こそバッグの奥底に封筒をしまった。


そこへ、白髭のマスターがお冷やを持ってやってきた。

お冷やをテーブルに置くと、何も言わず交互に私たち2人を眺めた。

アキは、おじさんに笑顔を向ける。

「ねー、マスター、このお店雰囲気あっていいよね。俺好きだよ。」

マスターは無言で少し笑った。

アキってある意味すごいわ。

普通、こんな無愛想なおじさん相手にそんな挑戦的な話題ふっかけないと思うんだけど。

でも、マスターも笑ってるし。

「俺コーヒーお願い。ハルさんは?」

「あ、私も。」

マスターはうなずくと、アキに意味深な笑みを投げかけて戻っていった。

なになに??!

アキは少したれた前髪を掻き上げて、静かに窓の外に目をやった。

その横顔はどことなく寂しげで、さっきの打ち合わせのふざけた雰囲気はみじんも感じられなかった。