目の前に目的の場所が見えてきた。

 今夜は月が出て少し明るい。


 堤防を上がらなくても、バイクの音が聞こえてくる。

 私は自転車を置き、歩いて堤防を登ると驚愕した。


 広い河川敷が街灯に照らされて、全容を目にすることができる。


 制服姿の奈緒くんが立っていた。

 目前には、黒い特効服姿の谷崎くんがいる。


 その背後で、これから始まるタイマン勝負を待ち構えるたくさんの暴走族。

 バイクに跨ったままだったり、座り込んで睨みをきかせる特攻服姿の人たち。

 みんな、奈緒くんを見つめてる。


 ここまで来たら、地味子の私だって後に引けないよ!

 堤防を静かに降りて、二人が立つ場所へ足を進める。


 睨み合う奈緒くんと谷崎くん、背後にいる暴走族。

 まだ、二人に近づく私に気づいてない。

 その距離、10メートル。


 目立つことを嫌い、存在を消して空気になるのが私の得意技。


 そんなスキル、今は邪魔なだけよ……