「ううん、百合子さんに貸してもらってるの」

 出てきた名前に、母は目元を緩めた。

「百合子さん。今度、私からもご挨拶に伺いたいわね」

「ちょっと遠いから悪いよ。……でも、嬉しいな」

 そう言ってくれるので、梓は申し訳ない気持ちと、嬉しい気持ちを同時に覚えた。

「じゃあお電話でもかけましょうか」

「ばぁばー! 早くぅ」

 そこで焦れたらしい和が、母の服を引っ張った。

 梓は母と顔を見合わせて、笑ってしまう。

「はいはい。ママも入っていいかな?」

 膝を上げて、空いたスペースへ向かった。

 和に聞くと、和はじゃらじゃらとおはじきを散らばらせながら、頷いた。

「うん! ママもやるのー!」

 三人で遊んだおはじき。

 懐かしい遊びだった。

 それに梓は感じることができた。

 ここにたくさん散らばっている美しいおはじきのように。

 自分はとても優しく、素敵なひとたちに囲まれていることを。