「どうしてもだよ」

 だから梓に言えたのはそれだけだった。

 和の不満はむしろつのったに決まっている。

 がばっと起き上がって、身を乗り出してきた。

 お風呂上がりなのだ、シャンプーの甘い香りがふわっと漂う。

「わかんない! どうしてそれじゃだめなの……」

 和の不満も気持ちもわかる。

 幼稚園のお友達は、ほとんど父親が一緒に暮らしている子だ。

 その中で自分は父親がいないということ、詳しくも知らないということ、普段から不満だったり、謎だったり、寂しかったりしたに決まっている。

「……ごめんね」

 気持ちはわかるのに説明できない。

 今の自分には、娘を納得させて、安心させてやることもできない。

 梓は泣きたいほどの無力感を味わった。

 泣きたい気持ちだったのは梓だけではなかった。

 和が喉を鳴らすのが聞こえて、すぐに梓に抱きついてきた。声を上げて泣き出す。

「なんでぇ……、パパ……、なんで、会えないの……っ!」

 泣き声の合間にそう言うのが聞こえた。