流石に「もう天国にいる」なんて嘘はつけなかったのだ。

 それに、いくら逃げたとしても、同じ日本、しかも日本国内という視点で見れば近すぎるところに住んでいるのに、生涯絶対会わないという保証はない。

 むしろ和が成長すれば『父に会いたい』と思って自分から訪ねていく可能性だって大きい。

 それなら『もうこの世にいない』という嘘のほうがいけないだろう。

 しかし『遠いところに住んでいる』というのも嘘であったことに変わりはないのだ。

 いや、確かに『遠いところ』である。

 梓の心にとって『遠いところ』なのだから。

「……遠いところから、来てくれたんだよ」

 少し考えて、そう言った。納得してくれるだろうか、と思いながら。

 和はじっと梓を見ていた。

 まるで梓の目の奥に本当の答えがある、というように。

 私だってわからない、と梓は内心思ったけれど、そんなことは自分の我儘だ。

「……そう」

 和は数秒黙って、それだけ言った。

 うつむいて、広げていた絵本に視線を落とした。