和臣は当初の予定通りだろう、席を立って、少し服を整えた。

 そして一旦しまった名刺入れを取り出し、一枚出して今度は百合子に差し出した。

「申し訳ございませんでした。俺の連絡先です。なにかございましたら、こちらにご連絡ください」

 戸惑った様子で百合子がそれを受け取った。

 梓は止められなかった。

 巻き込まないでください、とか、不要です、とか、言うべきだったかもしれない。

 でも自分がそれを言う資格はない、とも思った。

 言い淀んだ一瞬で、和臣が最後の言葉を言っていた。

「では、今日は失礼します」

 そのまま家を出て、和臣はカフェの駐車場に停めていた車に乗り込んだ。

 すぐにエンジン音がして、車は発進する。

 なにも挨拶はなかった。

 窓を開けることもなく、車はそのまま走り去った。