「……ごめんな」

 ぽつりと静かな声がした。

 和臣の声だった。

 静かにそれだけ言った。

 そして手を伸ばし、梓が強く抱きしめている和の髪に触れた。

 ふわふわやわらかな茶髪。

 今日はかわいらしいピンクのリボンでふたつにくくっていたその髪を、そっと撫でる。

 でもそれで終わりだった。

「ごめんなさい、私が目を離したせいで……!」

 バタバタ、とスリッパの音が聞こえて、百合子が顔を出した。

 申し訳なさそうな、張り詰めた顔をしている。

 おそらく百合子がなにかで席を外した隙に、和がここへやってきてしまったのだろう。

「いえ、……すみません」

 梓はそろっと振り返った。百合子に返事をする。

 このことで、少しだけ落ち着いた思考が戻ってくれたように感じたのだ。

「本当にすまなかった。今日はもう帰るよ」