「ママ? 知ってるひと?」

 きゅっと梓の手が握られて、梓はその感触で、やっとはっとした。

 これはどうやら現実なのだ。


 和臣がここにいる。
 どうやら自分がここにいるのだと探り当ててやってきた……。
 どうして、どういう理由で……。


 また混乱しそうになったけれど、梓は自分を叱咤した。そんな場合ではない。

「……か、かず、おみ……さん?」

 やっと口を開いた。声は震えた。

 言えたのはそれだけだったのに、和臣の表情は少しだけ緩んだ。

 精悍になった顔立ちが、ちょっとだけ笑みに近いような表情になる。

「良かった。……少し、話せないかな」

 明らかに偶然ではなく訪ねてこられたのだ。

 そういうつもりに決まっていたけれど、突然こんな事態になって、すぐに頷けるものか。

 梓はどう答えたものか、わからなくなってしまった。