今日も普通の一日だった。

 梓は主にホール担当なので、お客さんの注文を取り、料理を運び、合間に店の軽い掃除や備品の管理や整理など……。

 そんな仕事が大抵一日中だった。

 お昼にはまかないの簡単なランチをもらい、休憩室で食べる。

 休憩室は昔ながらの雰囲気で、大きなテーブルに椅子がいくつか。テレビもついている。

 そのテレビを見るともなしにぼんやり眺めながら、梓は今日の日替わりランチにも入っているメンチカツを頬張った。

 テレビでは都内で週末、催されたフェスティバルの様子が報道されていた。

 都内に住んでいた頃は、友達や元カレとああいうところにも遊びに行ったなぁ、なんて懐かしく思った。

 別段、戻りたいとは思わなかったけれど。

【ゆずりは】の仕事にも、和との生活にも不満なんてない。

 むしろ今がとても幸せだと思う。

 戻りたいなんて思うはずがない。

 それでも懐かしさを覚えたのは確かだった。


(和がもう少し大きくなったら、ああいうところに遊びに行ってみるのもいいかもしれないな)

 梓はランチを食べ終わり、思った。

 きっと楽しいだろう。


 幼稚園の子に人混みはまだ大変だろうから、フェスよりもう少し小規模なイベントからはじめよう。
 ああ、大きな公園なんかもいいかもしれない。
 活発な和だからきっと喜んで駆け回るよね。
 あと一、二年もしないうちに行けるかな。今から調べてみよう。


 平和なランチタイムを終えたのだけど、そんな平和な時間が今日の夕方、吹っ飛んで、この先の人生までも一変しようとは、このときは夢にも思わなかった。