決意した翌日には産婦人科に行って、母子手帳をもらってきた。

 通院もはじめた。

 職場のカフェ【ゆずりは】にも報告した。

 迷惑なら辞めなければいけないだろうか、と心配しながら切り出したのだけど、幸い、店長にもオーナーにも受け入れてもらえた。

 というか、オーナー……普段店には出ない、経営者という存在であるが、もう中年も越そうとしている彼がまさに、シングルマザーに育てられた身であったというのだ。

「おふくろも相当苦労して俺を育てたんだよ。そんな小弓川さんを放り出せるもんか。協力するとも」

 力強くそう言ってくれて、梓はきっとここでなら安心して働けるのだと安堵し、また感動してしまったものだ。

 そういった周囲の助けもあって、梓は埼玉の奥地で独り暮らしを続けながら、膨らんでいくお腹をゆっくり育てていった。

 時折都内から車で訪ねてくれる両親。

 学生時代の友達も何人か、よく連絡をくれて話を聞いたり、気遣ったりしてくれた。

 産休をもらって、臨月に入ってからは、母が泊まり込んでくれた。

 そして近くの小さな市立病院で、無事に女の子を出産したのである。