ああ、悪いことをした。
 くたびれているからぐっすり眠ったほうが良かったのに。


 後悔した梓だったが、和の様子は梓が予想したものとまったく違っていた。

「……ママ」

 小さく呟き、ふにゃっと笑顔になったのだ。

 梓のほうが驚いてしまう。

 どうして笑えるというのか。

 それでも近付いた。

 椅子を立ち、ベッドの端に腰掛ける。

 和が手を伸ばしてくるので、その手をきゅっと優しく握った。

「ママ……、ママとパパが、助けてくれた……」

 まだ少しぽやんとした声だったけれど、和はそう言った。

 心から安堵したという声だった。

 梓は胸が詰まるような気持ちを覚えた。

 自分たち、大人のトラブルに巻き込んでしまったも同然だったのに、この子は。

「……ごめんね。怖かったよね」

 また涙が込み上げそうになったが、和が笑みを浮かべているのに、自分が泣くわけにはいかない。

 よって呑み込んだ。