和臣のことを(おもんぱか)ってというだけではない。

 自分が嫌なのだ。

 和臣が和臣らしくいてくれないのは、さらに、それが自分のために叶わなくなってしまうのは、自分が自分で許せない。

 よって梓が選んだのは和臣と話をすることではなかった。

 ただ、和臣のスマホにメッセージを送った。

『ごめんなさい、別れてほしいんです。もう連絡しません』

 悩んで、悩んで、一時間以上かかったのに、最終的に送れたのはそれっぽっちの文章だった。

 震える指で送信ボタンをタップして、数秒後に既読がついた瞬間、梓の心臓は喉の奥まで跳ね上がった。

 ひゅっと、エレベーターに乗ったときのような気持ちの悪い感覚がせり上がる。

 とっさにトークアプリを閉じていた。

 登録情報を削除した。

 アプリ自体も削除した。

 続いて電話番号も消……そうとして、その前にはっとした。

 消しただけでは意味がない。

 よって消す前に着信拒否を設定した。

 すぐにスマホ自体も変えないと、と思う。

 それが梓にとっての第一歩だった。

 和臣の前から綺麗に消えてしまう、第一歩。

 連絡先を絶って、次は仕事、次は住んでいた家……。

 次々と片付けていった。

 どれもこれも、上手くいった。

 和臣の前から消えるのは、本当に上手くいったのだ。